’13 KTM 250EXC-F 整備 エンジンオーバーホール(腰上)編
今回は、JNCCなどのエンデューロレースに出場されているK村選手の車両整備のご紹介です。
整備中にバルブタイミングが、ずれてしまいエンジンが始動しなくなってしまったそうです。まずはタイミングを確認します。
この車両、右側のクランクケースカバーを外すと、カムチェーンが引っ掛かっているギヤが外れて、バルブタイミングがずれてしまうことがあるようです。
正規な位置に調整すると、すんなりエンジン始動しましたが、バルブタイミングがずれてしまった状態でクランキングしているので、ピストンとバルブが干渉している可能性があります。このままお返しすると今後不具合が出る可能性があるし、しばらくエンジンはノーメンテだったため、お客様と相談の上、シリンダーヘッドを開けて内部の状態確認と腰上オーバーホールをすることになりました。
いきなりバラバラです (笑)
心配していたピストンとバルブの干渉は無いようです。カーボンの蓄積はありますが、磨耗も少なく、状態は良い方ですね。今回は、バルブ、ピストンは再使用し、最小限のオーバーホールをおこないます。
状態が良いのは、お客様が、エンジンオイルやエアーフィルターの管理をしっかりしていたからですね。
とは言っても、それなりに、カーボンが溜まってますので、キレイにします。
特殊な溶剤や技と根気でピカピカになりました(笑)
シリンダーヘッドのカーボンもキレイにして、貼り付いているガスケットをスクレーパーでキレイにします。
余談ですが、この「KTCセラミックスクレーパー」良く切れるし、ミスも少なくなるから、お気に入りです。
エンジンオーバーホールは、清掃、洗浄が一番手間がかかるんですよね。もちろん、他の部品も全てキレイに洗浄して、組み付けて行きます。
いよいよ組み付けていくわけですが、このバルブとバルブシートの密着を良くすることが、腰上オーバーホールの要となります。この部分の作業を疎かにすると圧縮が抜けてしまったり、カーボンを噛みやすくなってしまいます。
写真では分かりにくいですが、光明丹で当たり幅をチェックします。すり合わせが必要なら行います。
チタンバルブを採用している車種は、すり合わせをしたバルブを、再使用することはできません。必ず新品に交換しましょう。または、シートカットしてバルブは再使用します。場合にもよりますので注意が必要ですね。
バルブを一度組込み、燃焼室にガソリンを溜めて密閉を確認します。もし、バルブフェースとバルブシートの間に隙間があれば、各ポートにガソリンが漏れてきます。NGなら、すり合わせ等で再度調整します。
今回は、しばらく置いても漏れてこないのでオッケーですね。
バルブクリアランスを確認するために、一度シリンダーヘッド単体にカムシャフトを組み込みます。
規定値内に入っていればオッケーです。入っていなければシムで調整します。
ピストン、シリンダーを組込みます。KTM特有なことですが、実はこの作業、ピストンリングの張力が強くて、ピストンをシリンダーに挿入するのが大変なんです。特殊工具を使えば比較的簡単ですが、無くても可能です。下手すると傷だらけになってしまい、使い物にならなくなります。注意が必要ですね。
シリンダーヘッドを組むために、上死点を合わせます。KTMの上死点の合わせ方は、少々特殊で、ウォーターポンプの下にあるボルトを一度外します。
すると、ボルトと一緒に厚いワッシャーが外れます。外した穴を覗きながら上死点を合わせて、ボルトのみを挿入します。するとクランクが上死点でロックされます。これで今後の作業が楽になります。
シリンダーヘッドを組み、バルブクリアランスを合わせてロック(縮めた状態)したカムチェーンテンショナーを組みます。
適切な工具を使い傷に気を付けてテンショナーのロックを解除します。次にクランクのロックボルトを元に戻します。
今回の作業は、ここでまでで肝心な所の組付けは終了です。
今回、KTMのエンジン整備を紹介しました。完全に細かい部分までは紹介しきれませんのであしからず。
KTMの整備(特にエンジン整備)は、国産ブランドの車両に比べて特殊な部分が多いため、信頼できるショップに任せることをお勧めします。行きつけのショップが無い方はお気軽に当店へご相談ください。
次回は、この車両の「車両整備編」をご紹介します。